おとめ塚温泉の
由来
萬葉集 / 巻九 / 一八一〇
高橋連虫麻呂
このおふろの南に、処女(おとめ)塚古墳があり、東西にそれぞれ求女(もとめ)塚古墳があります。このお風呂の六甲おとめ塚温泉という店名は、これら三つの塚にまつわる美しくも愛しい物語にちなんで名づけられました。
むかしむかし、このあたりは海べりの豊かな土地で菟原と呼ばれておりました。ここにひとりの美しい乙女が住み、菟原乙女(うないおとめ)と呼ばれ、多くの若者たちから吾が妻にぜひ、と求め続けられていました。
中でもこの地に住むたくましい若者菟原壮士(うないのおとこ)と、東の方茅渟(ちぬ)に住み笛をよくする茅渟壮士(ちぬのおとこ)はとりわけて激しく乙女を求め、ふたりの愛にはさまれて、彼女のこころはなすすべもなく切なく揺れ動くのでした。
そして乙女はふたりの壮士(おとこ)のひたむきな想いのどちらへも傾くことができず、遂にある夜舟をととのえ、海のかなたへと去ってゆき、何処かに身を隠してしまいました。
乙女は自分を愛するふたりの若者が、その愛の純粋なあまりにあい争うことになるのを見るに忍びなかったのです。それを知ったふたりの若者は、それぞれ乙女を追ってまた海のかなたへと旅に出、ふたたびこの里に帰ることがなかったということです。
後世、このあまりにも愛しい恋の物語を偲んで萬葉の歌にもなり、ものがたりにも多く書かれて今もなお三つの塚がここにまつられております。
このおふろは新装に当たり、この土地の愛恋のものがたりに因んで六甲おとめ塚温泉と名を改め、サロンは菟原乙女(うないおとめ)の優美さをあらわし、向かって右の風呂は茅渟壮士(ちぬのおとこ)の都ぶりのやさしさ、左のふろは菟原壮士(うないのおとこ)の鄙ぶりの強さを象徴するものとしてデザインされています。
日毎に男女を入れ替え営業しますので、いにしえのロマンを偲び、それぞれの湯あそび満載のおふろを、心ゆくまでお楽しみください。
-
処女塚古墳
-
西求女塚古墳
-
東求女塚古墳